売れない保険屋さん

セールストークのネタになれば。

~第50話:無限連鎖~社会に出たらパンツを脱ぎなさい。

社会に出たらパンツを脱ぎなさい。

~第50話:無限連鎖~

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数字の為ならパンツすら脱ぐ。相手が巨乳だろうが熟女だろうが、昔の酷い仕打ちをしてしまったオンナだろうが関係ない。プルデンシャルでは月曜に一週間の成績発表があって、私は何度も週間トップを取った事がある。所属するプルデンシャルでの支社での話だけど60人近くいた支社でトップを取るのは大変気持ちよく、モチベーションアップにもつながっていた。全国的に上位にも何度も入ったものだ。

そんな順調かと思えたプルデンシャル人生にジワリと影が忍び寄る。連続挙績が切れたとは言え、その後もさすがに頑張ったつもりではあったのだけど、段々とタコ(挙績ゼロの週)が目立ち始める。

1ヶ月4週のうち、タコが1週とかならまだマシな方で立て直しも効くのだけど、段々と1ヶ月に2タコ、3タコ、最後には4タコ、つまり1ヶ月ゼロ挙績だ。それはつまり1ヶ月の間、仕事をしていない事になる。

つまり訪問する先が次第に無くなって行った。これはプルデンシャルに於いては「言い訳」にしかならない。紹介入手をプルデンシャルの教えの通りしっかりやっていれば無限に見込み客は連鎖するように続くハズなのである。続くハズなのだが・・・。これを紹介の「無限連鎖」という。この無限連鎖という単語は特にプルデンシャルに限って言う単語ではない。ビジネスにおいてはこの無限連鎖をいかに成し遂げるかで成功かどうか決まる。

「無限連鎖」ついてはまたいつか書こうかと思うけど、私はほとんど連鎖しなかった。ここを極めないとプルデンシャルではオシマイなのだ。つまり訪問するところがなければ、月曜と木曜の午前中だけ出社して、あとはすべて「休日」である。ナニをしてもいい、つまり毎日がお休みだ.、ひゃっほーい♪とさすがに私も遊んではダメだと自制心が働いたし、行く必要が無くても会社に行けばすごい成績の先輩営業マンやマネージャーはけっこう出社しているので話をするだけでも刺激があるから朝9時には会社に出社していたが、2時間ほど経過した昼の11時近くになるともう限界だ。

「行って来ます!」

「行ってらっしゃい!」

先輩やマネージャーから激励の「行ってらっしゃい!」を受けると会社から車を走らせ、早速、一目散に行きつけのパチンコ屋に突撃だ。

(あの台は出てるかな?)

メモ帳代わりのスマホにはこと細かくパチンコ台のデータが記されてある。昨日も閉店間近に立ち寄り、狙い台のチェックを怠らず、今日の勝負台を決めている。そんな毎日が続きだした。朝から行く必要はないのだ。ある程度他人に打ってもらったデータを参考にしながら勝負をするのだ。そうこうしていると同期や先輩、後輩の人間もチラホラ集まってくる。

「うーす」

「おつかれーっす」

「どこがいい?」

「あの台がいいっすよ」

みんな私のデータをけっこう頼りにしてくれてて、常連の仲間達はだいたいお昼前後からこのパチンコ屋に出勤だ。

居心地がよかった。妙な連帯感が生まれるのだ。みんな昼からスロットを打っている。つまりみんな仕事をしていないのだ。安心感、やすらぎ、そして「仕事が無ければ何をしてもいい」という事を身をもって体現しているのだ。そう、何人も。

 「あれ?今日、〇〇先輩は?」

「ああ、なんかアポ入ったってよ」

「おお~頑張りますね~」

「俺たちも(スロット)頑張らないと、な!」

こうなるともう終わりである。今考えたら本当にバカだった。もちろんこんなアホな事をしたのは1年のうちの3か月ほどで、さすがに罪悪感を感じた私達はパチンコ通いを辞め、通った全員とも真剣に話をして、このパチンコクラブのメンバーでハワイ(社長杯)に行こうと固く団結した。日々連絡を取り合い、お互いを励まし合いながらその後はかなりの数字を挙げた。しかし手遅れだった。一度ついたサボり癖はよほどの事がない限り無くなる事はなく、1年のうち、約3か月近くもサボった行くあてのない人間たちが社長杯に入賞できるほど甘い世界ではない。いつの間にか、ぽつり、ぽつり、とパチンコクラブのメンバーが業績の上で脱落し始めた。再びパチンコ屋に集結し始めたのである。他のメンバーたちは稼いではパチ屋へ上納し、稼いでは上納する。稼いでなくてもパチ屋へ上納するのだが、勝ったら勝ったで夜はキャバクラで課外授業だ。正直言うと、とてもおもしろい仲間と共有した超楽しい時間ではあったが、このままじゃいけない。

私はなんとかその最悪の状況は抜け出し、年収も決して褒められた数字ではないが、なんとか多少の贅沢が可能なギリギリラインを維持した。でも、訪問先がない時は本当に不安なのだ。不安で当たり前なのだが、だんだんと耐えれないレベルにまでなってしまう。その不安を忘れさせてくれるのは私にとって一つだけ。

あの仲間がいないかどうか偵察に行くのだ。パチンコ屋に。パチンコクラブのメンバーを見つけると本当に安心し、コーヒーを差し入れしつつ、ちょっと打つ、もちろん閉店まで。傷を舐め合いながら。

パチンカスは「無限連鎖」するのだ。

続く