売れない保険屋さん

セールストークのネタになれば。

~第51話:溶けるプルデンシャル~社会に出たらパンツを脱ぎなさい。

社会に出たらパンツを脱ぎなさい。

~第51話:溶けるプルデンシャル~

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給料が減って行く。

もちろん妻であるノリピーには言えない。今まで通り、1週間に1度だけちょっと贅沢をしつつ生活していたが、だんだんとノリピーも本性が現れる。そう、忘れちゃいけない、こいつもパチンカス出身だ。

「軍資金いくらある?」

「ん、とりあえず10万でいいか?」

ひとり5万ずつで勝負開始だ。本当に昔のスロットって凄かった。5万なんてあっという間になくなっちゃう。まるで溶けるように。

「無くなった~」

「ちょっと待っとけ」

銀行に走る。もちろんキャッシングだ。そう、すでに借金を繰り返すようになっていたがノリピーの手前、お金があるように見せないといけない。

「ハイ、6万」

「ありがとう、今度こそは当たるよ♡」

ノリピーを安心させる為にも余裕のフリをしてお金を渡すが私の財政は火の車どころか破たんしていた。しかしまだ「何とかなる」と思っていた私はキャッシングを繰り返し、ノリピーとの生活水準を落とさなかった。プルデンシャルでの仕事も調子が良い時と悪い時の差が激しく、大きな波のような給料で月によってバラつきが激しかったが、ノリピーも働いていたのでそんな状況がバレずに生活していった。

しかしある日、ついにノリピーが妊娠した。つわりもあって、ノリピーは仕事を辞め私の給料のみでの生活が始まった。より一層仕事を頑張らないといけない。私は父親になるのだ。この妻のお腹の中の赤ちゃんが産まれるという事は、この子に対しても一生稼ぎ続けないといけないという責任も一緒に産まれてくるのだ。とにかく紹介をもらうべく、ご縁や契約をもらったお客さん1人1人にアプローチするが、そんな事なんざとっくの昔に終わっているのだけど、話すネタがない私には妻の妊娠すら電話するキッカケとなる。

「おお、おめでとうございます!」

「ありがとうございます^^」

「何かお祝い、送りますね~」

違うのだ、お祝いなんざいらない。今、そしてこれからも欲しいのは「紹介」、つまり見込み客だけだ。そんな思考回路に陥るとすでに赤信号だ。人様の行為を素直に受け入れる事ができないほど追い込まれ始めていた。

給料が減って行く、それでも同世代の人間と比べても人並以上にもらっていたが、手取りとして入ってくるお金の半分程度はランニングコストに消えていく。一度味わった生活水準を落とすのは至難の業だし、何より妻であるノリピーにこの状況はバレたくない。

借金を繰り返し、ついに限界の時が来た。私個人では到底無理と思える金額まで到達していたのだけど、それでもまだ生活水準を落とす気持ちになれない。しかし異変に気付いたのはやはりノリピーだった。

「大丈夫なの?」

私の目減りしていく給料に気付いたのだろう。何より精神的に参っていた。

 「ごめんなさい、今月の生活費は通常通りの金額が渡せません」

「来月は大丈夫だから」

と弁解したが、まだ借金の事は黙っていた。

いい月と悪い月があからさまに交互に続くようになり、いつしか悪い月が連続するようになっていった。嬉しいハズの給料日が怖くなり、家に帰る事すら怖くなった。家に帰る時もノリピーを避けるように深夜に帰り、早朝に出て行く毎日を続けるようになると夫婦の関係もギクシャクし始め、ノリピーとの別居生活が始まった。妊娠しているという事もあったが、事実上、実家に帰ってしまったのだ。ノリピーと会うのは給料日だけ。その間も連絡は一切ナシ。完全に夫婦としてはオワコンな関係になってしまった。しかしロクな金額を渡せない月が増えて行ったのだからそれも仕方ないのかもしれない。

さすがに限界を迎えつつあったある日、不意打ちで待ち構えるようにして帰って来てたノリピーに言われた。

「もう辞めたら?あんたに保険屋は向かないよ」

(終わった・・・)

反論する余地もない。この仕事で家族を養えない以上、この仕事に向いていない事に変わりはないし、一番の理解者であるべき妻に引導を渡された瞬間、頭が真っ白になり、色々な思いでカラダが動かなくなった。ベッドに横たわると3日ほど起き上がれなくなった。今まで私を信じて保険料を預けてくれたお客さんへ辞める事を伝える必要があるし、借金を返すアテもなくなった。子供はあと数か月もしたら産まれてくるし、その責任と借金の言い訳が頭をぐるぐる巡っても答えは出ず、ぐるぐる巡っても答えは出ず。出た答えは「夢が途絶えた」という事だけ。色々なものが溶けて行くのだ。プルデンシャルでの華々しい思い出も、苦しくても楽しかった日々も、時間に余裕がある夢のような仕事内容も、そして将来、お金持ちになりたかった夢も。

貧乏育ちの私はお金持ちになりたかった。この業界ならその可能性がある。とくに外資系のフルコミッションとなれば一番の近道なのかもしれないが、所詮、パンツだけでのし上がってきたオトコには無理な世界だった。

「辞めます」

決心がついた私はそう妻に伝え、私を採用してくれたマネージャー、大変私を可愛がってくれた先輩方にも伝えたが、誰一人として引き止める人間はいなかった。決して冷たいワケではない、引き止める「責任」がないからだ。たとえ引き止めてもただの延命措置に他ならなず、さっさと次の仕事を見つけた方が幸せになる確率が高いのだ。第一、この会社は全員が「個人事業主」であるから人の心配をするより自分の心配の方が先である。アタリマエだ。

こうして辞める直前ですら年間を通して見ると、そこそこの数字をキープしていた私だけど間違いなく下降気流に乗ってしまったと妻に判断された時が全て告白のタイミングだった。これまで数々の女性とともに作って来た借金告白チャンスだ。

「話があります」

借金がある旨とその金額を伝えると顔面蒼白になった妻と再び改めて別居生活が始まってしまった。まさに離婚前提だ。そりゃそうだ、いくらお腹の中の子供の父親とは言え、借金まみれの男と一緒に居て幸せになれるハズがない。

「今度こそ変わろう」

そう決心してプルデンシャルを退職し、早急に再就職をした。

これも色々あったのだけど、時間がある時にでも書きます。負け犬のブログなど読む価値など1秒もありませんが。

続く

あとがき:次回こそパンツ話の最終回と思いますが、こんなブログは読む価値など1秒もありませんのであしからず^^