売れない保険屋さん

セールストークのネタになれば。

~第32話:ちょっと結婚してくる~社会に出たらパンツを脱ぎなさい。

社会に出たらパンツを脱ぎなさい。

~第32話:ちょっと結婚してくる~

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「ちょっと結婚してくる」

ついにノリピー結婚する。というか、婚姻届けは出してるから事実上、結婚してるんですがそれは。やっぱり披露宴という儀式のようなモノがオンナには必要らしい、と思ったけど、ノリピーの気持ちもわからんでもない。というのも、巨大クライアントの社長の息子、すなわち御曹司、つまり次期社長と結婚するという事は、お披露目も大事なのだ。多くの招待状を送って関係各位に知らしめてこそ初めて周知の事実となるという事なのだろう。それはそれで大変だね。頑張れノリピー。私にはまったく関係のない世界だ。

さすがに「終わったな」と思った。さすがにもう私のオンボロマンションには来ないだろう。新婚旅行もどっか海外に行くとの事だし、帰って来ても会社は辞めずに仕事は続けるみたいだから社長秘書みたいな事をするようだ。それはそれでがんじがらめで可哀そうなのかもしれないが、私が現れなかったら普通にそのままそのコースだったワケで、どうぞ頑張ってくださいとしか言いようがない。

ひとつの区切りが付いたという事だ。さあ、私は私で仕事をしよう。私は忙しいのだ。新規事業の立ち上げをやりながら多忙の日々を送っていたが充実していた。いくら売上を挙げても徹夜しても新規得意先を開拓しても給料は変わらないからそれは痛かったけど、それがサラリーマンって事だ。固定給がもらえるだけありがたいのだけど、爆発的に増えない限りは借金だって全然減らないし、「こいつとは長い付き合いになるな」と半ばあきらめて、低金利おまとめローンなどを駆使しつつボーナスである程度まとまった金額を返しつつ、給料が上がるのをひたすら待つしかない。

しかしながら私の功績が認められないワケがなく、同期達から遅れること数年、ようやく私も上級職となり、給料もドーンと増え、ボーナス100万円超えとか貰え始めたのだがそれはもう少しあとの話。それでも借金はなかなか減らないから本当に怖いよ、むじん君とリボ払い。

さて、ノリピーと連絡が取れなくなって1カ月ほど、すっかり落ち着いたかと思われたノリピーだがまたもやアニキさん(ノリピーの会社の上司で私とも仲良くしてくれる人望の厚い男性)から連絡が入る。

「今夜飲み行こうか」

「ういっす」

この人の誘いは二つ返事でOKだ。何があっても断る事はない。私には姉と妹はいるが兄弟がいないので本当のアニキみたいな感じ。気さくで歯切れがよく本当に気持ちがよい性格で尊敬できる人なのだ。しかも金曜だし、花金は毎週飲みたいくらいだ。

さっさと終わらない仕事を適当に切り上げ、飲みに出る。油でカウンターがベトベトするいつもの安い汚い焼き鳥屋だ。

先に席について適当にオーダーし、ビールなど飲みながら待っているとアニキさんが来た。

「最近どう?」

「おかげさまで^^」

「お前、スゴイみたいやんか」

「おかげさまで^^」

「ところでノリピー、引き取らねーか?」

「は???」

「別居してるぜ、あいつら」

なんてこった、まだ披露宴終わって、新婚旅行から帰って来て1カ月くらいじゃねーか。いきなり別居かよ。アニキ、もういいんすよ、おせっかいっすよ、困りますよ、もう巻き込まないでくださいよ・・・・。

「残念ですが社長の娘をどうこうできません」

私の決意は岩のように固く、いくらアニキのお願いでも今の仕事の流れは壊したくなかった。というか、まずは借金。

「え!?困ったなあ・・・」

今までアニキさんの言う事は大概聞いてきたし、多少の無理も聞く私だけど、こればっかりはと思って断った。確かにノリピーは美人でかわいいけど、もうズルズル行きたくないし、未練はない。決意は固いのだ。しかしなぜ「困ったなあ・・・」なんて言うんですか、私が断るのが意外でしたか?

「呼んでるんだわ。8時に。もうすぐ来る。」

「へっ?」

「お久しぶりです」

う、う、わあああ!

ああ?

 

あ?

 

あれ?ノリピー?なんか久々会ったら雰囲気変わったよ。大人のオンナになったというか、人妻の色気なのか?いいオンナになったじゃんか!へええ!?

白いタイトスカートにヒール?なんかかっこよくね?社長秘書やってるんだっけ?まあ、過去の事を気にする私ではないし、とにかく座りなよ、まあ飲もうよ。俺もだいぶ順調なんだぜ?自慢しちゃうよ?っていうか、あまりお酒飲めなかったけど何飲む?

「同じのでいいよ(o^―^o)ニコ」

これ焼酎っすよ、これはダメやろ。まあ、少しは飲んでたし、まあいっか。今日は金曜だし、久々の再会だしね、とにかく飲もうや。

いくらノリピーとは言え、アニキと男二人で飲むより女性が一人くらい居たほうが楽しいし、この汚い焼き鳥屋にミスマッチな美人は他の客を驚かせる。なんだか優越感すら感じながら焼酎のロックをグビグビ飲み、久々のバカ話に花が咲いたのだ。そしてその汚い焼き鳥屋で焼き鳥をつまみに焼酎を飲む美人、という空間がより一層、ノリピーを可愛く演出してしまった。

ほっと安心したようなアニキさん。そしてノリピーもきっと厳しい環境にいるのだろう。社長秘書ながらその社長の息子とは別居状態。当然、いい顔をされるワケではなく、相当な気苦労があるようだ。

 ・・・だけどそれは私に関係はない。いくら酔ってるとは言え、久々にいいオンナを見て舞い上がったと言うか興奮したとは言え、決意とティンコだけは固いのだ。

・・・ビンビンにネ。

 

つづく