⑧ヤクザはヤバいよ～ライブハウス武道館へようこそ！～
⑧ヤクザはヤバいよ～ライブハウス武道館へようこそ！～
（指だけは守ろう）
薄れゆく意識の中で私は（指だけは守れ）それだけを念仏のように唱え、ひたすらグーを握っていた。土下座している私の顔面に「うんじゃらなんじゃらわかっとんのかボケえ！！」という怒声とともに次から次に革靴キックが飛んでくる。首から上がパンチングボールのように右へ左へ弾け飛ぶ。
おお、ご無沙汰してます。誰かと思ったら若い衆の皆さんじゃないですか。最近見ないと思ったらちゃんとお勤めされてたんですね。良かった良かった。皆さんてっきり遠い九州の地でロケットランチャーでもぶっ放しちゃってお縄になったかと思ってましたよ。そしてなんとまあ、お友達もけっこう多いんですねえ。
そう、なんと私は組事務所に連行されていた。ひたすら土下座をし続けたがとにかくグーは握ったままだ。（たぶん、おティンティンは切られない）そんな気がしてたのでとにかく指だ。ヤ◯ザと言えば指詰めだ。それはヤ◯ザがしくじった時に行う根性を見せつつ相手を納得させるアホな自虐行為なワケで、しくじった証拠としてヤ◯ザの世界じゃ札付きとなるワケで素人さんの私に強要されるかどうかはまったくわからないが、とにかく指だった。私、上手いかどうかは別としてギターも弾いていたのだ。私にとっての至上のバンドはボウイで布袋さんのギターに憧れたこの世代ではどこにでもいる普通のおっさんだ。何より親からもらった大事な部位を無くすワケにはいかない。
「うんじゃらじゃボケええ！」バキ！
「もんじゃらじゃボケええ！」バキ！
「なんじゃらじゃこのボケええ！」ズゴ！
うんじゃらけのもんじゃらけ。ドリフ状態。
ところでなんでヤ◯ザの人って「じゃ」って使うんだろう。みんな地方出身なのかな？やっぱり任侠映画の本拠地、広島の人達なの？ここは東京だぜ？ライブハウス武道館へよ・う・こ・そ！な氷室さんは群馬出身だっけ？
と言う事を考えたような気もするしあまり記憶がない。人間の防衛本能なのか、ヤバい記憶は閉ざすとか忘れちゃうとかよく言います。事故った瞬間を覚えてなくて気が付いたら病院のベッドの上だった。ってドラマとかで良く聞くヤツなのかもしれません。
時は２月。パンチングボールの途中から気を失ったのか酔いつぶれたのかわかんないけど、気が付くと私は路地裏の駐輪場で倒れていた。というか捨てられていた。駐輪場の隣は燃えるゴミの収集場があったので生ごみ扱いだったのだろう。
（指は・・・・？）
本当にこの時が一番ドキドキした。ずっと握ってたからなのか、なかなか手がひらかない。恐る恐る１本１本、開いていく。爪が手のひらに食い込んでいる。
（ある・・・ある・・・ある・・・ある・・・！！）
「全部あったああああああ！」「間違いない、おティンティンもある！」とホッと胸をなでおろすと次に感じたのは「寒い」だ。真冬の２月、多分、深夜１時から４時くらいまでの厳寒の寒空の下、約３時間ほど、おんもに捨てられてたのだ。
（ヤバい、せっかく生き延びたのに凍死コース？）と思えるほどシャレにならないほど寒い。体全体の感覚が全くない。手が開かなかったのは寒さのせいもあったと思う。
こんなアホな内容のブログで沢尻エリカと佐々木希を足した顔のぴちぴちの２２歳の美女を抱きまくったとか自慢しているだけじゃねーか、お前なんか殺られてしまえ！と思った人だって何人もいるだろうなあ。フフフ、残念でした。私は五体満足でなんとか生還する事に成功したのだ。
とにかく寒い、なんとかしないと。一度店に戻る事にした。頭はたぶん二日酔いと革靴効果の外的要因で割れるように痛いし、顔はなんか別人のようになってる気がしたけど、とにかく一度、暖を取らないと本当にヤバいと思った。「こんなとこで死にたくないぜ、ここは東京だぜ？」と這うように人影少なくなった飲み屋街を徘徊し、なんとかお店にたどり着く。途中、すれ違った人たちに「うお！」とか叫ばれたけど、それがどういう状態かはお店に戻ってわかった・・・。
血みどろのドラえもんを想像してもらえばいいと思うけど、もうひとつ問題があった。
朝方４時だというのにマスターはカウンター内で接客をしながらグラスを拭き上げていた。
・・・・トドさん（ヤ〇ザ）が私の帰りを待っていたのだ。
続く
